昼寝好男のブログ

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『華氏451度』,レイ・ブラッドベリ 〜 読後レビュー 〜

華氏451度は「本のページに火がつき、燃え上がる温度」であり、摂氏に換算すると233℃となる。天ぷら油の高温が180℃くらいなので、紙というのは意外と発火しやすい物質なのだとわかる。

さて本書は、書物を所持することが禁止された社会を描く。この社会では書物を不法所持していると密告され、直ちに焚書官が駆けつけてくる。焚書官は書物を発見し、火を放つ。書物を世界から抹殺する仕事を請け負う焚書官の一人、モンターグがこの小説の主人公である。やがて、モンターグは一人の少女と出会い、彼女とのコミュニケーションをきっかけにして、自身の中にずっとくすぶり続けていた、本を燃やして葬ってしまうことに対する疑念を膨らませていく。

『華氏451度』は1953年に出版されている。この時代を概観すると、1949年に中華人民共和国が設立され、ソビエトが原爆実験に成功している。北側の共産主義勢力に対する不安と警戒感が蔓延する中、1950年にアメリカでマッカーシズムが勃発する。いわゆる「赤狩り」である。密告と処罰、人々は理不尽な密告に怯えることになる。そんな中、レイ・ブラッドベリが執筆したのが本書『華氏451度』である。

こんな時代背景があるため、『華氏451度』の直接のターゲットは当時のマッカーシズムに対する批判であることに間違いはないのだが、ブラッドベリは問題の本質を的確に捉えて物語を構想しているため、半世紀以上が経った今でも、本書の内容はまったく色褪せていない。Webに公開されているレビューを見れば、本書を読んであまりにも現代の状況と酷似していて驚かされたなどという意見が書かれているのを確認できる。

僕はブラッドベリの本を多くは読んでいないのだが、本書を読んで感じたのは、ブラッドベリという人は人間の愚かさを批判しながらも、心の根底には、人間に対する信頼が横たわっているということだった。政治家は国民に考えさせないように努力をし、馬鹿げた政策を考えだす。そこに脅威があると扇動して軍備を増強し、国民が望んでなどいない戦争へと誘導する。そんな悲惨な末路の先に、他ならぬ人間自身から育まれる未来への微かな希望が見え始める。その希望は、一人ひとりの人間が、悲惨な状況を自分事として捉え、真剣に向き合った結果出てくるものである。ブラッドベリの揺るぎない人間信頼への想いがあったからこそ、『華氏451度」は色褪せる事のない、不朽のストーリーとなったのだろう。